魔王/#10

直人はインゲだったのか。
あれってアンデルセン童話だっけ。靴を汚すのが嫌でパンを踏んだ娘が、罰として鳥に変えられて仲間の鳥にパン屑のありかを教えるの。
パン屑が踏んだパンの大きさになるまでインゲの罰は終わらない、ってやつ。でも他人の罪を裁くことで自分の罪を償ってる気になるなんて、ふざくんな、って普通は思うよね。
罰っていうのは償いの機会で、その機会を逸してしまったら償えないまま罪の意識を抱えていくしかなくなる。もちろん人の命に変えられるような罰なんかないから、罪悪感は一生ついて回るけどそれでも。
いやもう直人も詩織も成瀬もおにーちゃんもパパも、みんなすごい芝居で息つく暇もなかったよ。みんなグッジョブ。
でもまあ殺されちゃった宗田やヨウスケに比べたら、犯罪者にはなっても殺されるわけじゃない葛西やにーちゃんとかマシなような気はするけどなあ。大物政治家の秘書や跡取りなんていうポジションにいた人間からしたら、そういうドロップアウトは死ぬよりつらいのかも知れないけど。
そもそもの始まりは、英雄が死んだことに関して息子や弟を失った友雄やそのおかあさんに対して、誰も謝罪の言葉をあげなかったことだと思うんだ。もちろんごめんですめば警察はいらないんだけど、自分が受けた傷に対してそれをつけた本人がなんの傷も負っていないと思うことは耐えられないというより許せないものだと思うんだよね。それなら同じ傷を、と思ってしまう気持ちは分からなくもないけど、そもそも相手がなんの傷も負っていないと信じたことが間違いだったと知った今、成瀬先生も自分が直人を追い込んだ袋小路まで付き合って、破滅する以外の選択肢は見当たらないんだと思う。
罰を受ける機会がなかったことが根源的な不幸なのだと誰よりも知る直人にしたら、おにーちゃんのことも成瀬先生も、罰されることこそが救いへの第一歩なんだと思う。次回最終回。直人や成瀬先生に救いはあるか?