地獄兄弟 in シブヤ

カブト冒頭で「シブヤの街に隕石が落ちた」というナレーションを聞いた時、Sh15uyaを見た人間の多くは「またシブヤかよ!」と心で突っ込んだと思うのだ。伸ちゃんと米ちゃんの繋がりとして当然最初に浮かぶ(つーか他にあるのか?)Sh15uyaだが、そのシナリオライターを迎えて送り出されるライダー最新作の冒頭でそっちを連想させる言葉を出されても、そういう遊びを喜べるほどあの作品を好きな人ってそんなにいないと思うんだよね。

カブトが始まった時点では私はVol.1しか見ていなかったし、開始前に新作のメインが米ちゃんだと知った時もそれほどまずい選択だとは思わなかった。伸ちゃんの仕事の中では作品評価は最悪に近いSh15uyaだが、その脚本家の米ちゃんをライダーのメインに迎える以上仕事に不満はなかったのだろうし、実際Sh15uyaが面白くなかったのは米ちゃんの責任だと思うが、Sh15uyaがつまらなかったのは伸ちゃんと田崎さんのせいだと思う。555以降の仕事として田崎監督の企画を引き受けたというSh15uyaだが、田崎監督のやりたいことは特撮まわりの見せ方にあったと思うし後で全編を通して見ても物語のアウトラインに伸ちゃんの主張は私には見えない。むしろある程度カブトを見た時点で全編通して見ると、Sh15uyaの物語は米ちゃんに一任……というより丸投げされていたんだな、と感じた。ちったあ口出せよ(笑。

響鬼終盤の仕事で伸ちゃんを意識し、過去作を遡った私は当然リアルタイムでのSh15uyaの評判を知らない。そもそもこっちじゃO.A.しなかったしな。
しかしアンチも多いカリスマプロデューサーの仕事が放送の翌年に、某所に単独スレもなくDVDの中古も出回っていなければ「誰も気にしなかった番組なんだな」と思う。実際伸ちゃん周りの評判をぐぐっても、Sh15uyaでの仕事を叩く意見は見なかった。アンチのみなさんも叩くんだったら、視聴率最高をマークしたアギトやイケメンライダーブームを作った龍騎や一番ベルトを売った555じゃなく、こういう仕事を叩けば良いのにさ。
私も最初にVol.1を見た時には無理に見なくて良い作品だと思ったし、後から全部見終わった後も伸ちゃんの仕事としては気にすることはない仕事だと思った。田崎監督がやりたかった特撮周りの見せ方ではそこそこ目標値クリアしている印象があったし、途中を楽しんでしまった身としては別に不満もなかったのだ。はなしが面白くないのは脚本家のせいだろうしw。
似たようなタイミングでGAROを見始めた時には、同じ横山さんがアクション監督をしていたこともあり、なぜSh15uyaが鼻も引っ掛けられなかった一方でGAROが祭りと呼んで良いような話題作になっているのかと素で思った。Sh15uyaを「面白くないけどなんか好きな番組」、GAROを「面白いけど、好きか嫌いかといわれればわりとどうでも良い番組」だと感じた私には、“特撮番組”としてのこの2作品は似たようなものと感じられたのだ。
そりゃあSh15uyaのはなしはつまんなかったけどさ。GAROのはなしだって別に面白くはないべ(笑。

その意識が変わったのはデスノートの公開に先駆けて金子監督のブログを知り、興味をひかれてホーリーランドを見た後である。
ホーリーランドを見終わって、「この番組面白いし好きだ」と思った時、いきなりSh15uyaに足りなかったものが見えちゃったんである。

ホリランにあってSh15uyaにないものは徳山秀典だ、というのは極論ではあるけど暴論ではない。
ホリランとGAROにあってSh15uyaになかったのは男の格好良さだ。

坂口拓ちゃんとか伊藤慎さん辺りのスレッドを見ていると感じるのだが、アクション好きな男のメンタルホモ率って高いと思う。
<別に「おまえらみんなほんとはガチだろ」とけんか売ってるわけじゃないから怒らないようにw。
同じ男としての身体能力に対する問答無用の憧れで、アクション好きになっている人って多いと思うのだ。その辺は女しかいない男性俳優板の役者スレのギスギス具合と、特撮板や映画板の役者スレの空気の良さを比べると肌で感じる。
そして格好悪い男に男は憧れない。
素人離れした身体能力を持つ石垣佑磨がワンツーで不良を倒しても、精神的に敗者でしかない神代ユウだけでカリスマ・伊沢マサキがいなければ、ホリランもあそこまで話題にはならなかっただろう。
アクションドラマのホリランをSh15uyaと同じくくりで考えるのは違和感があるかも知れないが、深夜のドラマとしてホリランとGAROを並べて語る意見は多かったし実際視聴層はかぶっていただろう。だったらSh15uyaだけが違うはずはない。
そしてGAROが受けたのも大人向け特撮という面だけでなく、鋼牙と零のヒーロー性とアクションの格好良さは大きかったと思う。

巷間伝えられる敏腕ぶりに気を取られると気付きにくいが、伸ちゃんの感覚はちょっとずれている。
シャンゼリオンにしても平成ライダーにしても、強くてかっこ良いのが当たり前のヒーローや仮面ライダーが、いい加減だったり精神的に弱かったりという発想の逆転が受けたんだろうし、基本的にオーラ重視のメン食いPだが描き方で格好良さというのは目指さない。
逆にいえばヒーローやライダーは格好良くて当たり前という前提があるから面白いんであって、弱くてなにもできないのが当たり前な15才のがきんちょをリアルに描かれても面白くはないし、常人離れしたアクションを見せられても演じるのが年下の小僧やギャルでは憧れようもない。
それに気付かなかったのはPの落ち度だ。*1そしてエマとツヨシが“出会って”終わるはなしには、ユウと伊沢や鋼牙と零の間にあるような絆はどこにもなかった。

ここでようやく地獄兄弟である。

結果的にカブト終盤の視聴モチの大半を占めたホッパーズだが本筋に絡むことはまるで期待していなかったというか、むしろこの二人が本筋に絡むのは兄弟がこのおいしい(w)ポジションを捨てて雑魚ライダーに戻る時だと思っていたので本筋に絡んだ面白さはまるで期待していなかった。本筋に戻らないと、というのは「ライダーがぐれてちゃ駄目だろw」という一種のヒーロー幻想だし、それが予定調和以上のものになるとはまるで思えなかったのだ。
正直剣が岬に惚れた辺りで、もう「作品」としてのカブトは投げたなと思ってたし、フィーチャリング地獄兄弟も去年の仮面ライダー斬鬼同様、視聴率対策のてこ入れだと思った。まあそれでも去年の斬鬼周りはきっちりテーマに絡んでたのに兄弟は絡むと思えなかったから、「それで良いのか、伸ちゃん!」と思わなくはなかったけどな。本筋に絡まなくてもドレイクのはなしやサソードの最期はテーマを表してたりしたけど、兄弟はそういうのですらなかったし、サソード死亡回なんか、ラスボス前の乃木を倒したのに誰も知らないくらいだしw。
で、間宮回の後で書いてたけど、最初は別に兄弟が幸せになるとは思えなかったし、ある意味“不幸”を描くと断然冴える(なぜか“悲劇”じゃないんだよな)米ちゃんの筆を堪能するべく、影ちゃんに期待していた部分すらあった。
しかし最終的なあの結論があそこまでショックだったのは二人の幸せを願っちゃったこともあるし、何度も書いてるけど、あの末路が伸ちゃん的にどうだったのかってことなんだ。
そうしてグルグル考えてたら、カブトとSh15uyaは切り離して考えられない気がしてきた。

前に書いたけど、地獄兄弟の結末ってSh15uyaのラストと同じなんだよね。
そして特ニューの米さんインタ。ほんとこの天然のおっさんはよー。あの本筋に絡まない二人を「いじろうと思えばいくらでもいじれる」なんて言った日にゃ、「この二人を書くのが一番面白かった」って言ってるようにしか聞こえんよw。

伸ちゃんは今回わりとひいてたって聞いてるけど、責任者の仕事は責任取ることなんだから、いつもと違うことするのに伸ちゃんの意志が働かなかったわけはないと思うんだ。
そこで気になるのは学園編で天道と絡んだのに影ちゃんに殺された恵子ワームと、影ちゃん地獄落ちの回にゼクトルを殺している兄貴*2
そしてワームになって絶望した影ちゃんを兄貴がライダーキックで蹴り殺すという、「おまえら仮面ライダーがそんな根性なしで良いのか!」と正座させたくなる結末と、この辺りをトータルに考えると、伸ちゃんは地獄兄弟に関してはMaxのフリーハンドを米ちゃんにあげていたんだなあ、と思う。

そして地獄兄弟編の兄貴は文句なく格好良かった。それこそ「脇役のくせになんでそんな無駄に格好良いんだ」と笑えるほどに。
信頼はあったはずなのにお互いにそれを裏切った因縁を持つ二人が絶望の中で、互いに絆を結んでいくはなしは、確実に一部で祭りになってた。
地獄兄弟はSh15uyaのリベンジを果たしたわけだ。

もちろん地獄兄弟の誕生自体がたまたまだったのは言質が取れてるし、そのすべてが予定通りだったわけないと思う。
元々兄貴が影ちゃんを裏切る予定だったって聞いてるけど、その予定が変わった瞬間こそ兄弟が本筋復帰の可能性を断たれ、独立編「地獄兄弟」の主役に収まった瞬間だったんじゃないかな。
けれど登場時の矢車さんがかっこいいけどどうってことない管理職だったからこそ、ああなった兄貴の格好良さが際立ったことも含めて*3、どうしようもない人間同士だからこそ成立してしまうあの結末のろくでもなさが、すごい米ちゃんっぽくて美しいと今は思う。
あ。私あの最終回見た時点でもう、兄貴は影ちゃんの隣で冷たくなったという方にシフトチェンジしましたからw。
だってそれがすべてじゃなかったとしても、田崎監督と伸ちゃん、米ちゃん、音楽のハイジマさんと弓削君が集まったとしたら、Sh15uyaでやり残したことを、って意識がなかったはずないと思うんだ。
東映はリベンジすんの好きだしなw。
もちろん「だからってboy meets girlを男同士でやるなよ(-。−;)」とか言いたいことはあるが(w)、そう思うと伸ちゃんってデモシカでカブトに米ちゃんを連れてきたわけじゃなく、米ちゃんで見たかったはなしがあったからなんだな、と思うし、なんかそういうのはうれしいんだ。
まあ私はカブトは天道とひよりのboy meets girlにして欲しかった派なんだけどさw。

*1:Sh15uyaにおける弓削君は「かっこいい兄貴」というより擬似的なおとうさんなので、男が惚れるには役不足な感じだ。

*2:はっきり死んだと描写されてないが、兄貴に蹴散らされて倒れているのをいじっているのに反応がない。

*3:崩れた男の格好良さを描くことじゃ、やくざ映画東映に勝てるとこはないっすよ。