カブトの教科書

カブトという作品はともかく伸ちゃんの仕事としてどうにもあれを評価する気になれないのは、プロデューサーの立場としてあれに関する伸ちゃんはどうしたんだってくらい無能だったなあ、と思わずにいられないからで、もちろんあの作品に関しては伸ちゃんはひいてたとか人が見たいと思うものを作ることを考えたとかいう情報は得た上で、だってPの仕事はPの仕事だもん。失敗したのはひいてたからだなんて言い訳は立たないでしょうが。
id:lotusteaさんが今週のライアーゲームを見て天道の迷走について書いてるわけだけど、あの特ニューの米ちゃんインタを読んで思ったのは「あー。この人ほんとノリが軽いな(^_^;」ってことで、米ちゃん作品のノリがギャグアニメだというのは色んな人が言ってるけど、じゃあそのノリに見合った属性を天道に与えて、そのノリに見合ったはなしにすれば良かったじゃん、と思うんだよね。カブトで伸ちゃんがやろうとしたのが正義にまつわる逡巡をやめて絶対的な正義を描くことだというエントリは前に書いたけど、絶対正義なんて米ちゃんが興味あるなんて思えないもんw。*1
去年書いた「おまえの言うことは正しい。だが」はエントリをあげたタイミングやコメント欄の流れもあって天道のダブルスタンダードを巡るはなしに見えちゃったみたいだけど、もともと私は伸ちゃんと違って絶対正義が不寛容なものとは思ってないんだ。正義の有り様なんか望ましいヒーロー性の姿でさえあれば良いと思ってるし、天道をスーパーヒーローにするのなら、公平性だのなんだのにこだわらず、「俺が正義」の名の下に自分基準でひょいひょい大岡裁きをしていけば良かったんだよ。4話の亮ワームが許されなかったのは亮ワームの自我が亮と同じではない、ワームとして人間に仇成す気マンマンで亮の姿すら加賀美を傷つけるものでしかなかったからで、「おまえの〜」のコメ欄で黒猫亭さんが言ってるように、「ワームだから死ななければならない」という剣に対して「おまえなら大丈夫だ。岬と共に生きろ」と言ってしまえるのが米ちゃんの天道だと思うし、そういう風に“情”という自分基準で、ひよりを含む人間の中で生きたい“善き隣人”たるワームとの共存の道を示す一方で、そうでないワームを倒していくスーパーヒーローというのがこのノリに見合った天道像だったんじゃないのと思う。
電王に米ちゃんが書いてあらためて分かったんだけど、米ちゃんの脚本ってそういう虚構性っていうか、「おはなし」と割り切ることではじめて楽しめる部分があると思うんだね。でも過去の白倉ライダーっていうのは主人公たちの悩む姿を見せることで彼等が自分の身近な友人であるかのように思わせる、過剰に感情移入させることで成立させていた部分があるから、そういう人たちにおはなしと割り切って楽しむ見方はつらい。終盤擬態天道に対するひよりの仕打ちに強い拒否反応を示した人の多くが、私を含めて555を特別なフェイバリットに挙げているのは偶然じゃないと思う。
カブトが始まった頃に伸ちゃんが公式で天道の孤独について語っててすごいズレてる気がしたんだけど、ああいう天道にしたいんなら米ちゃんにメイン頼むのが間違ってるよ。いきなり水をぶっかける描写を入れるならこういう行動が許されるリアリティで全体を描くべきで、カブトの迷走ってそういう米ちゃんの虚構性と、伸ちゃんの過剰な生真面目さが噛み合なかった……というか、正義の公平性とヒーロー性は伸ちゃんにとっちゃ不可分のものだったのかも知れないけど、公平性に目をつぶれば「俺が正義」のはなしは十分米ちゃんで描けたのに、と思うわけです。もともと米ちゃんの価値観っていうのは、すべてを捨てて大量殺人犯と生きることを選べるような種類のもんなんだから。
カブトっていうのは良くも悪くも天道をどう思うかというのが評価の分かれ目になるはなしだと思うけど、テーマを「俺が正義」の「俺が」の部分においたエンタメ作品にすべきところを、メインライターの資質にも合わなきゃ自分が具体的な道筋を示せるわけでもない「正義」の部分に見えちゃう設定を最初に置いちゃったせいで、天道が無駄にやなやつに見えたのはあると思うんだ。娯楽作品には娯楽作品に見合ったモチーフがあると思うんよ。
ってことをあらためて思ったのは、ヒロたんつながりで見た「わたしたちの教科書」のせいでもあるんですが。あれも「おはなし」と割り切るにはデリケートなモチーフをセンセーショナルに扱ってるせいでなかなか心ない見え方をする作品で、ここんとこのポー様絡みの展開は個人的にちょっとつらいもんがあったんで。
「嘘を嘘と〜」は仮想空間に生きる鉄則ではあるんですが、描きたいものがある時にそれをすんなり受け入れてもらうためにはモチーフの選び方って重要だよね、と思ってしまった次第です。はい。

*1:ライアーゲーム自体はそんな真面目に見てないんで、lotusteaさんのエントリはきっかけです。あおる気はないんですいません(・・;