松浦理英子/裏ヴァージョン

裏ヴァージョンのネタバレ注意

裏ヴァージョン (文春文庫)

裏ヴァージョン (文春文庫)

ちょっと前に本屋で「犬身」を見つけ、その時は手元不如意で買わずに帰ってネットで買おうと検索かけたら、親指Pの後7年前にこれが出てたと知って先に購入。いやシリーズものでもなんでもないんだから別に読まずに読んでも問題ないんですが、親指Pの時その前読んだ「セバスチャン」の間に「ナチュラル・ウーマン」が出ているのを知らずに読んで、読んでおけば良かったと思ったもんだから。まあこの人のセクシャル・アイデンティティをビアンだと思っちゃうと絶対はなしが分かんなくなるだけだと私は思うんだけどさー。
しかし女子大生作家というふれこみで出た「葬儀の日」以来、50才の現在まで発表した小説作品6作ってすごいな(^_^;。
読みはじめたとたんにびっくりするくらいつまんないアメリカ人のはなしが始まってびっくりするんですが、一種の書簡体小説なのよね。だから読んでる方はビアンのアフリカ・アメリカンのはなしを読みながら、自分を同居させてくれている高校時代の友人に、そういう小説を書いて読ませる40女の気持ちを考えるというわけ分かんないことをせなならんわけで。
既に「犬身」を読みはじめた上で言うんですが、もともとどっちかというと寒々しいこの人の主人公像の中でもこのはなしの昌子の寒々しさは出色だなと思うのは、他の作品の主人公に比べて、昌子が他人と関係を結ぶことをあきらめてしまっているせいだと思うわけですよ。
まあ結局のところその実態をまるで明かさずに消えてしまう昌子がほんとに主人公なのかというはなしなんですがね。昌子と鈴子の関係は過去作の登場人物たちを容易く連想させるものなんですが、過去作の主人公の内面が、昌子のようなものであるのかと思えてしまうところがなにより寒々しいのかもなー。
ああ。それでタイトルが裏ヴァージョン(過去作の一側面の意?)なのか?