きもの美 選ぶ目着る心◆白洲正子

きもの美 (知恵の森文庫)

きもの美 (知恵の森文庫)

土曜日に時間つぶしの種が必要になりそうだったので、軽く読めるエッセイを、と思って購入した本。もうすぐようやく完結編が放送される白洲次郎の奥さん、“白洲のテリヤ”こと正子夫人が書いたきものに関するエッセイです。放送時の感想はこちらこちら
なんとなく買った本だけどこれはすごく良い本です。読んでいてなぜこの聡明なおばさんに関する回顧談をもとに、あの痛々しい人物像が描き出されてしまうのかと疑問を感じるくらいに(笑。縁者が存命する実在の人物に関するドラマは一般に礼を欠くことを怖れて必要以上に人格者に描いてしまうものですが、公式サイトのスタッフ談から感じ取れるように、お身内も実際以上に持ち上げられることが許せない種類の聡明さなんだろうなあ。
46才の時に銀座で染織工芸の店を出して、そこでの体験談を交えたきものの本なんですが、紬や友禅といった技法に関するはなしの面白さはもちろん、ものを創り出すという意味で、創作活動に関わる人すべてに読んで欲しい本です。私誰より白倉の伸ちゃんに読ませたいと思ったもんw!
本人は両親とも伯爵の家に生まれて小学校卒業後を米国で過ごした本物のセレブなんですが、読んでいると「ああ。この人ほんとに趣味が良いんだ」と思わされます。店も単に品物を仕入れて出す店でなく、織元と一緒に古い技術の復興を考えるようなものもあり、そういう技法の豆知識的な楽しさもあるけど、なによりも「戦争があったからものを大切にする楽しさを知った。」と言ってしまえるこの人のものの考え方がすごい気持ち良いです。私がきもの好きなのもあるけど、言葉のひとつひとつに読んでいてわくわくするような面白さがある。
きものの知識があった方が楽しめるとは思いますが、言っていることは洋服でのおしゃれにも通じる普遍的なことだし、入門編としても面白い本です。というより、織物でもドラマでも小説でも音楽でも、ものを創るということは本質的には変わらないんだと読んでて思ったよ。