風が強く吹いている

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面白かったー! 上映中一瞬たりとも退屈することがなく、画面を見続けることに一片の苦痛も感じない、登場人物のすべてに「頑張れ」とエールを送り続けたくなるそういう映画だった。とりたてて好きな俳優が出ているわけでもなく、始まる前の期待値自体は格別高くはなかったんだけど、今はほんとに見て良かったと思う。
以下ネタバレにつき隠します。



もうなにが良いって、ファーストシーンで走(カケル)@林遣都にごはんをおごる灰二@小出恵介の赤い帽子がいきなり良いんだよね!
もうそれだけで、灰二っていうキャラの得体の知れなさうさんくささ、どんな人だか分かんない感じがすごい出てんの。“悪い人には見えない”とかそういう一般的人物評価がなんの意味も持たない感じ。まあそういいつつカケルには、「知らない人についていっちゃダメだよ」と画面につっこんだけどさ(^_^;。
だからその帽子が飛ばされて、ハナ@水沢エレナ(今作ではすごくカワイイv)がそれを拾うそれだけのシーンで、灰二がこのシーンでやったことの意味とか目的とか全部腑に落ちた時は、「すげーな、この映画」っていきなり思った。
おはなしは大学陸上部の寮に住む、陸上部とは名ばかりの弱小陸上部のメンバーが、寮の管理を一手に引き受ける灰二の指揮のもと、お正月の駅伝中継でおなじみ箱根大学駅伝に出場してゴールを目指すってものなんだけど、ほんとに面白いんだよね。「面白いなんてそんな主観的な」って思うけど、ほんとどう良かったかって考えたら、「面白かった」としか言い様がないんだ。
事前情報でなんとなく主演は林君みたいな気がしてたけど、実際のトップクレジットは小出君。でも視点人物はどっちかっていうとカケルの方。
運動能力の求められるはなしだけに特撮OB率も高いんだけど、ここでも天才ちゃんの林君はじめ、みんな運動能力はすごいです。今日はSHTがマラソンだったため、なかば強制的に本物の陸上選手の走りを見てから出ていったけど、それと比べても遜色なし。つーか大会シーンのエキストラとか本物の大学陸上の選手だけど、それよりフォーム良いくらいだもん(^_^;。
10人しかいない素人同然の陸上部で、日本中が注目する箱根駅伝を目指すという灰二のムチャな夢に乗ることにつっこませないのは、灰二が一度は怪我で陸上をあきらめたことが語られている以上に、みんなが灰二のことを良いやつだと思っている、それが灰二の夢なら手を貸したいと思っているのが分かるからだと思うのね。だからそこまで灰二を信用しているわけでもない、長距離走者の目指す頂点として、普通にそれが射程距離にある夢だったカケルにとってはみんなみたいに単純に乗ることはできなくて、でも「絶対無理」だと証明するつもりの自分の走りにみんながついてきてるとか、そういうので満更夢じゃないかもと感じるうちに、灰二の夢だったものがカケル自身の目標になっていくところの見せ方も良かった。
王子@中村優一はかーなーり良い役です。キャラとしてはだだっ子属性全開の、「うわーーー。素っぽい……(^_^;」って感じのヘタレっ子ですが、それだけに見せられるドラマが感動的。
だって普通に考えて、名門陸上部の選手とかならともかく、箱根駅伝に出られないことなんて恥でもなんでもないじゃん。あんなとこ、選ばれたひとつまみの人間だけが行くところなんだから。
そう言って「そんなとこ行きたくない」って言ってた王子が、みんなと一緒に走るうちに自分でそこを走りたいと思う、走るだけじゃなく少しでも良い結果を残したいと思って、結果的に最下位でゴールしたことを悔しがって泣く、っていうのがすごく好き。王子は灰二をペテン師だって言ったけど、普通だったら「こんなもん無理。俺こんなのやりたくない」って投げ出して当然のところを、灰二はただ「王子ならできる。王子にしかできない」と言い続けて、王子自身に「俺にだってできる。俺だってやるんだ」と思わせたんだよね。だから事実として、王子は灰二にだまされたとは思ってないはずなんだけど。
他校生役の五十嵐隼士君に至るまで、キャストは全部立ってておいしい役です。あまりの脚本の出来の良さに、監督・脚本の大森寿美男って人調べて見たらもとは劇団主宰の人なのね。なんか劇団関係の人って、職分を役者に丸投げしちゃうようなイメージがあってあまり良い印象なかったんだけど、最近の脚本家見ていると、群像劇でキャラを立てるスキルはある人が多いのかなあ。
実際さ。灰二はこのメンバーで箱根を走るって言ったけど、そこでそれが実現できるのはおはなしだからで、だからって予選落ちして出られなかったら灰二の夢は叶わなかったのかって言ったらそんなことないと思うんだ。走るのが好きとか走りたいとかいう気持ちを忘れたところで走っていて、一度は故障で走ることをあきらめた灰二にしたら、自分の見込んだみんなと箱根を目指す、というそれ自体が夢だったんだと思うんだよね。灰二はカケルを自分の理想だみたいなことを言ったけど、そういう意味では、アオタケメンバーの全員が灰二の理想なんだし、箱根を目指すために必要な最後の10人目、灰二の理想のランナー・カケルと一緒に走った最初のシーンで、灰二の夢は叶ってたんだと思う。その上で、苦しさとか体調不良を圧して王子や神童が走るのはそれが彼等自身の夢だからだし、ユキみたいに、自分の見たいものを見るために走ってたんだよね。
すごく好きな映画だけどたぶんリピ見はしない。でもDVDが出たらすぐに買って、毎年箱根駅伝見てる母親に「面白いよ」って見せる。
なんていうかそういう好きさの映画。