仁/#8

http://www.tbs.co.jp/jin2009/
某さんに録画送っていただきました。うういつもありがとうです。面白い。面白いよ、仁! 3度も見直してしまった。
んで今週のおはなしとして恭太郎さん(小出恵介)ですよ。というかこのおはなしの中の役割として、恭太郎っていうのは父上をコレラで亡くして母と妹を守る橘家の当主である一方で、その母上からはこの国を良くするための先魁だと思う勝(小日向文世)の教えを受けることを浮ついた自覚のないことだと思われていて、自分の中にある理想と他人からの評価を気にする気持ちに引き裂かれた、自分が自分の思うような自分でないことにどうにも納得できない難儀な人なんだと思うんだよね。
その難儀さは難儀さとして、目の前の見知らぬ人を守るために身を投げ出すことができる人で、その人に命を助けられたらその恩に報いようとする人で、でも恭太郎にとって仁(大沢たかお)って、勝に言われたお役目としての守らなきゃって意識はあっても、どちらかというと恩人ではあっても記憶もなくこの時代に生きる上の常識もない、ちょっとぼーとした心配な人で、なんだかいろいろすごいことしてるし妹は好きみたいだけど、この人を守るのが大切な仕事だと言われてもなんか腑に落ちない、って感じだったんだと思うんだ。だって別にお役目じゃなくったって、恭太郎は咲(綾瀬はるか)の大切な人として、なにがあっても仁を守ろうとしてくれたと思うし。
今週恭太郎がペニシリン工場の様子を見て、どんなに多くの人がこの薬に関わっているか分かったって山田さんに言ってたけど、恭太郎は今までだって、さんざん近くで仁のすごさやペニシリンに関わる諸々を見てたはずなんだよね。なのに今頃そんなこと言っているのは、恭太郎にとっては医術とか薬とかはそれほど意味のあるものじゃなかったからで、結局人間って自分の目指すすごさとか、切羽詰まって必要なものの大切さしか分かんないと思うんだ。だから田之助吉沢悠)なんかチャラチャラ他人の見せ物になってるだけの芸人で、なのに自分の好きな初音(水沢エレナ)の心を占めているのが田之助だってことが、田之助の酷さより自分の無力への情けなさって風に出るんだよね。
んで「うまいなー」と思ったのが恭太郎が初音に買ってやった眼鏡が父上の形見の備前を売って買ってやったものだってはなしで、田之助を芸人風情と罵ったところで、田之助の芸と人気は田之助自身のものだけど、恭太郎は初音にあげるものなんて最初から持ってないんだよね。吉原の女郎に眼鏡を買ってやったことが人助けだなんて通らないことなんて、恭太郎だって分かってると思うし。意識の戻った初音に会わないと言ったのは、恭太郎の言うように田之助を思う初音が、他の馴染み客である自分に会うのは気まずいだろうというのはあったにしても、治療した仁や金策した竜馬(内野聖陽)に比べ、自分は感謝されるようなことはなにもしていない、と思う気持ちがあったんだと思う。してやれることがあってもしなかった田之助と、してやりたい気持ちがあってもしてやれることのない自分。それでも初音の心が田之助にある以上、おろおろと見ていただけの自分が「心配したんだよ」という顔をして初音に会うことはしたくなかったんだと思うの。
野風(中谷美紀)は「実がない」と田之助を罵ったけど、初音と同じように身を売る立場の田之助にしたらそういう“実のなさ”に踏みにじられはしないというのが女郎の誇りなんだよね。一方で初音は好きでも身請けして囲う甲斐性もない恭太郎の実なんかあってもなんにもならねーよ、ってはなしで、なんていうか、田之助に初音への同情なんかないと思うし、自分を好きな女にそれってどうなの?、っていうのはあっても、そんなことは自分を好きじゃない女を抱いた恭太郎がごちゃごちゃ言うことじゃなくて、ただ400両のお金が必要になった時に、恭太郎は自分が貶めた田之助の誇りにはちゃんと金額分の価値があると認めたんだと思うんだ。
それは恭太郎にしたら敗北なんだろうけど、田之助にしたら、なにかを守るためなら頭下げるくらい屁でもないなんて自明のことだと思うしさ。武士の誇りが400両じゃなくて、いろんな人の血と汗の結晶であるペニシリンを守るために、衆人環視の中で見せ物になる恭太郎の誇りを捨てる覚悟には、自分の芸と同じだけの価値があるってことだよね。
金を拾った中条流の、「芸人が」という捨て台詞を聞いた田之助が笑っているように、誇りっていうのは自分の中に確固としてあればそれで良いようなもんなんだよ。なのにそれが分からない恭太郎の「ぼんくら旗本にはそれしかできない」という言葉に、恭太郎のしたことのすごさを語って聞かせる竜馬と仁w。恭太郎って結局、自分の思うすごさしか見ようとしないから、仁や竜馬のすごさが分かんないように自分のすごさも分かんないってはなしなんだと思うんだ。
仁ってけっこう分かりやすく、「今週はこういうはなしです」って作りになってると思うんだけど、今週って誇りのはなしだったと思う。「武士が芸人に頭なんか下げられるか」って、ほんとは誇りじゃなくって立場とか体面とかのはなしだよね。現に武士である恭太郎にとって、その体面を傷つけられることが死ぬよりつらいことなのはもちろんだけど、踏みにじられる立場の者の誇りってどんなもんかってはなしだよね。それは仁のために鈴屋に奉公できないかという咲みたいなもんで、旗本の娘が女郎になれば面白がって抱きにくる物好きもいるだろうけど、そうやって笑われたとしても、そこまでして守りたいものがあることこそ誇って良いってことだと思うんだ。
今週も文句なく面白かったです。終わるのが悲しい。1年くらいやれば良いのに。