花闇/皆川博子

花闇 (集英社文庫)

花闇 (集英社文庫)

「仁」を見た時から気になっていた澤村田之助のはなし。昔読んだのが先日部屋を片付けていたら出てきたんで、最近時間つぶしに昼休みとかに読んでいたのを、今日帰ってから半分くらい一気に読み終えた。
幕末から明治にかけて活躍した田之助の名前はなんとなく知ってたんだけど、特に意識したのは篠井英介さんが一人芝居のネタにした頃ね。舞台自体は見られなかったけどネタにした本とかいろいろ読んでて、でも皆川博子も好きで作家買いしてた人なんで、この本が田之助のはなしなのは読んだ動機としてたまたまなのかも知れない。
視点人物は市川三すじという、今でいう付き人みたいなことをしていた田之助の弟子の役者で、田之助自身の内面はほとんど語られない。おはなしとしては、江戸時代の終わりに芝居町近くに子堕ろしの母親の私生児として生まれた少年・三すじが、母に捨てられた後役者の家の手伝いに入って田之助につく中で、一世を風靡しつつも病に冒され、右足、左足、やがて両手も失いながら舞台に立つ姿を見つめる心が語られてる感じ。仁に出てきた新門の親分とか、名前だけは出てくるよ。
絵師の芳年が重要な脇役なんだけど、本人いわく「十ある世間のみっつしか見ないようにして生きているから、十の世界から十五のものを見て写し取る芳年を哀れに感じる」三すじは、ほんとは自分自身十五見える人間なんだと思う。だから見えるもののほとんどを見なかったことにしてあきらめたエネルギーで、田之助を見つめてたんじゃないかなあ。愛してるとか憎んでるかとかじゃなく、三すじの生は田之助を見つめること、なんだと思う。
役者の才能についてとかいろいろ、今読むと思うことも多かった。うちのお客さんなら面白く読める気はする本なので、お暇があったらオススメしますw。