コピーのアイデンティティ

なんだかんだいってリリースされたDVDも買っていないし、遡って見直すこともあまりないので過去のシーンを覚えていないカブトだが、未だ印象に残っているシーンがある。ドレイク登場編でワームが大介のお客と出会い、「あなた、きれいね」と呟いた場面だ。

今回のはなしで間宮麗奈の意識は間宮オリジナルのものでなく、自分ばかりか部下にまで喪服の着用を強要するガドル閣下なみのファッションセンスは擬態ワームのものであることが語られた。擬態しているとはいえもともとが他人の記憶を持つとはいえワームなのだから、当然といえば当然なのだが今までの擬態ワームのエピソードを思い返すとそこには奇妙な符合がある気がする。
ざっと並べて加賀美の弟・亮、医師、ドレイク登場編の少女、生簀、マコト、そして先週の恵子に間宮麗奈だ。

今週の追記で間宮に触れたのは、以前あの性格をオリジナルのものじゃないのかと書いたことを思い出して、そういえば違ったんだなとおちゃらけただけだが、よく考えたら意外とそういうことなのかも知れない。以前から思っていたことだが、例えば友人に裏切られて悔しい思いをしたとして、記憶とは裏切られたという事実か、それともその悔しさまで含めてだろうか。

「あたし自分よりきれいな人見たらムカつくんだー」と口に出す女の子と友達になりたくはないが、思春期のわりと可愛い女の子が美人を見てうらやむことは普通にあると思うし、声楽家を志す間宮の「ステージに立ちたい」という思いを名声欲で片付ける人の方が変だとは思う。恵子は成績でトップを取りたいとがっついてはいたが、オリジナルの恵子にはまた頑張れば良いと思い直す強さも、知り合ったパン屋にもらったパンがおいしいと喜ぶ感受性もあった。生簀にしたって、料理人として大成したい思いはあったとしても、それで他人を操りたいとまで思っていたとは考えにくい。一方マコトワームは加賀美の気持ちを利用しようとする辺りワームとしての自意識の方が強そうだが、それでもムーンボウへの思いとかはオリジナルのものだと思う。

自分よりきれいな人は殺してしまえ。良い成績さえ取れれば他のことはどうでも良い。
そこにあるのは欲望の記号的変換じゃないのか。思えば医師のエピソードも「医師として人を救いたい」(言葉としては善行だが、職業的成功に過ぎないともいえる)というだけのことだったのかも知れない。かつて間宮ワームがひよりに言った「人間とは不思議な生き物だ。おまえを調べればなにか分かるかも知れない」という言葉のきっかけとなったマコトワームの行動と他のワームの行動の差は「感情の機微」といったものなのではないか。
「今より幸せになりたい」という人として当たり前の上昇志向や希望も、基盤となる感情を無視すれば天井知らずの欲望に変わる。擬態ワームの行動理念はそういう感情の機微を理解できずに極端に走った結果なのでは?

だとしたら神代剣の行動も、姉や家名への執着が極端に出たものなのかも知れない。……なんて、本気で思ってないけどなーw。