物語の結末

「なあに、ちっとも。水くさいことをいうなよ。なにか、ひとつの、めぼしいことをやりとげるには、きっと、どこかで、いたい思いか、損をしなくちゃならないさ。だれかが、ぎせいに、身がわりに、なるのでなくちゃ、できないさ。」
なんとなく、ものかなしげな目つきを見せて、青おには、でも、あっさりと、いいました。
「ねえ、そうしよう。」

某所のコメ欄で言ったことがあるけど、電王の物語の構造が浜田広介の「泣いた赤おに」なことに気がついたのは、良太郎が泣いたシーンについて書いた「良太郎を傷つけたもの」を書いてた時だ。当初あのエントリは「泣いた良太郎」というベッタベタなタイトルで考えられていた。−−まとまんなかったからボツったけどなw。
それは電王のキャラクターのモチーフに桃太郎由来の赤鬼が入っている時点でむしろ当然なことだったんだけど、キャラクターのそれぞれが時に青鬼になるこのはなしで、一番青鬼で在り続けたのは良太郎だと思うんだ。

私は先週の感想を軽く流して書いたけど、それはあからさまに「泣いた赤おに」をなぞったこのはなしでウラが青鬼であることにきっと気付いていた良太郎の気持ちに、向き合って掘り下げるのが嫌だったからだ。「心配してない」と語る良太郎の、誰よりも沈鬱な表情。それはウラが裏切ることは心配してないけど、それとは違う良太郎にとってはもっと重大なことを確信していたからじゃないのか。
良太郎って、最初からわりとウラのことは把握してるんだよね。ウラを受け入れた成り行きにしても、ウラのことを信用してたわけじゃなくても、ああいう風に言われたらウラがどう感じるかは分かってたんだと思う。それが単純な感謝とかじゃないからこそ、ウラがこのまま離れることはないだろうってさ。
キンタのあれを見たウラが、どんなつもりであの芝居を打ったのかは分かってたんだと思う。だから良太郎の心配は、きっともうウラが自分達のそばに戻ってはこないっていうこと。とっくにそれを覚悟しているってこと。
だからこそデンライナーを取り戻してみんなを迎えにきた時、良太郎は自分がその場を引き受けてウラを先に行かせようとしたんだよね。ここでウラをひとりにしたら、もう戻ってこないことは分かっていたから。

電王の物語の中で良太郎はずっと「仕方ないだろ」と言われる側だったけど、良太郎はもうずっと、自分の不運を「仕方ないこと」と受け入れていたんだよね。けして「仕方ない」とあきらめない良太郎の行動は、受け入れざるを得ない自分の不運への怒りからきていたんじゃないのかな? 時間を旅する列車に乗って敵と戦う超越力を得た時、良太郎の気持ちはずっと続いてきた自分の不運を受け入れざるを得ない星回りへの怒りを、「誰にもあきらめさせない」という方向へ持っていったんだと思う。

「泣いた赤おに」のはなしの微妙さって、誰が見たって一番赤鬼のこと考えてくれている青鬼がなにも言わずに赤鬼のために悪者になってくれて、でもそうまでして赤鬼が求めた“人間と仲良くなること”が、さほど意味のあることには見えないことだと思うんだ。もともと理由もなく赤鬼を疑って、そのくせ単純な芝居で手のひらを返す。そんな連中と仲良くするために青鬼が悪者になってくれた挙げ句に黙って赤鬼の前から消えて、しかも赤鬼はその覚悟を、すべてなされてしまった後で知らされる、って辺りが誰も救われなくてやりきれないんだよね。

良太郎は人間だったけど、この時間にこだわる理由は最後まで作られなかった。
侑斗の気持ちは少年らしい漠然とした正義感や使命感から、やがて自分と結ばれる愛理の属する世界を守るんだ、という風にシフトして行ったけど、良太郎にとっては自分が守らなければならないものが姉の愛理だったのはたまたまのことで、他の人だったらテンション変わったなんてことないと思う。良太郎はずっと、自分にとってはさほどこだわる必要があるようにも見えない人間のために、痛い思いやつらい思いに耐えてタロズを消滅させる戦いを続けて間接的にタロズを殴り続けたんだよ。
私はしょっちゅう巧と良太郎を比べるけど、巧の罪は自分も遠からず灰になることで救済される。けれど良太郎は人間だから、ずっと罪悪感を抱えたまま生きていかないといけない。
良太郎が一番可哀想なのは、良太郎は一番大切な人たちの仲間じゃないって点なんだ。

アカオニクン。ニンゲンタチトハ ドコマデモ ナカヨク マジメニ ツキアッテ タノシク クラシテ イッテ クダサイ。ボクハ、シバラク キミニハ オ目ニ カカリマセン。コノママ キミト ツキアイヲ ツヅケテ イケバ、ニンゲンハ、キミヲ ウタガウ コトガ ナイトモ カギリマセン。ウスキミ ワルク オモワナイデモ アリマセン。ソレデハ マコトニ ツマラナイ。ソウ カンガエテ、ボクハ コレカラ タビニ デル コトニ シマシタ。ナガイ ナガイ タビニ ナルカモ シレマセン。ケレドモ、ボクハ イツデモ キミヲ ワスレマイ。イツカ ドコカデ マタアエルカモ シレマセン。サヨウナラ キミ。カラダヲ ダイジニ シテ クダサイ。
 ドコマデモ キミノ トモダチ   アオオニ

赤おには、だまって、それを読みました。二ども三ども読みました。戸に手をかけて顔をおしつけ、しくしくと、なみだをながして泣きました。

やがて自分が味わう喪失感を、良太郎は確信しながら戦っているんだよね。
けれどこの戦いを投げ出してしまうことは、タロズの行為を無駄にすることになる。
青鬼のために赤鬼にできるのが人間と仲良く暮らすことだけなように、良太郎にできることも、この時間を守りきることだけなんだ。

でもこのはなしって、そんなにいやなはなしかな?

青鬼は旅に出たけど帰ってくるかも知れない。また赤鬼は会えるかも知れない。
だって青鬼は「どこまでも君の友達」なんだから。
そしてまた会えた時の赤鬼は、青鬼が自分にどんなに良くしてくれたか、どんな良い友達だったか知っているんだよね。
だからその時まで、赤鬼の物語は終わらない。

電王の物語がどんなふうに終わるかは分からない。
でも良太郎は、タロズが自分にどんなに良くしてくれたか、どんな良い友達だったか知っている。
だとしたらたとえ別れがあるとしても、この時間のずっと先にまた会える時があるんじゃないのかな?
その時はお互い実体なんかないかも知れないけど、良太郎の守った時間のずっと先に、やっぱタロズもいて欲しいと思うよ。

「……未来はきっと」。