BECK

http://www.beck-movie.jp/
監督:堤幸彦 脚本:大石哲也
自分BECKのイメージができあがっているもともとのBECK読者ゆえ、健のコユキ佐藤健)に入り込むのに時間がかかって、はなしにノってきたサク(中村蒼)登場辺りで「もう1回見てから感想書くかなあ」とか思ったりしたけど、意外とノリ出してからノルのは一気で、そういう心配はなかったと思った。まあまた見にいくけど。
"自分の思っていたBECK"とは違うけど、“この5人のBECK”としては十分に「見て良かった」と思える内容。ちゃんと青春映画だったし。以下ネタバレにつき隠します。




入るのに時間がかかったのは、序盤のコユキの日常が“オトコノコの平凡な日常”じゃなくて、「これじゃ自分が嫌いになってても仕方ないよねー」というような、“ヒサンないじめられっ子の絶望的学校生活”だったせいです。だからコユキがサクと出会う放送室ジャックの“革命”の時点で、コユキの変化は完了しているじゃないかと思えてしまったのね。そしてそれはある意味その通りなんだし。
なんつうかさ。コユキは竜介(水嶋ヒロ)と出会って自分の退屈な人生が変化したっていうけど、健のコユキは十分強かで前向きで、負けん気の強い子だと思うんだ。だから原作のコユキがつまんない毎日をヘナヘナと躱しつつ、意外と致命的なダメージは受けていない代わりに竜介との出会いがなければほんとつまんない人生を歩いた気がするのと対照的に、健のコユキは学校の不良にロックオンされた高校生活さえやりすごせば、それなりに変化のある人生に至った気がしちゃうのね。
そういうところでこの映画が“BECK"というバンドの物語である感じがしないなあ、と感じてしまったのが入り込めない原因だったんだけど、竜介と出会って変化したコユキの物語にサクが介入してくる兵藤(桜田通)軍団絡みのシーン以降、すごくワクワクして見ることができた。ちゃんと情報を画面に入れて見せる堤監督の見せ方の上手さとかもあるんだけど、わりとダラダラしたはなしをコンパクトにまとめたこともあって、主要人物を絞った関わり方が人間関係の密度にも見えて、あまり描写がないわりにキャラクター同士がお互い感情移入していることに違和感がなかったんだよね。もちろんそれは、演じる彼等がお互いへの気持ちをちゃんと演じていたことが一番の理由なんだけど。
おはなしとしては、BECKにしてもダイブリにしても、どういう位置づけのバンドなのか分からなくて業界描写としてハズカシクないですかというのはありつつ……ねえ(^_^;。だってベルアームみたいなバンドがああいう野外フェスのメインステージとか、ダイブリのステージに出演、とかあり得ないじゃん。そらマッド(トッド・シムコ)もギターに火ーつけるよw。
ただ蘭(中村獅堂)の妨害とかは、その失笑加減のせいでかえって気にならず、真帆(忽那汐里)をめぐるコユキとヨシト(古川雄大)の恋のはなしに見えて良かったです。竜介とレオン(サンキ・リー)の約束とかも、はなしがここで終わるなら別に良いじゃんってはなしだし。だってどうカウントされたかは明確じゃなくてもステージを完遂できたのはBECKだけだし、BECK全体とレオンの契約だった原作と違って、竜介とレオンの契約なら竜介だけ働きなさいよとしか……あ。ゴメンw。でももともとのはなしが才能あるロクデナシ・エディ(ブレット・ペンバートン)に心酔するロクデナシ・竜介が、身勝手にバンドを振り回すはなしにしか見えないからさあ。竜介自分はリーダーだから、って言ってたけどそうだっけ? 曲のメインライターなのは確かだろうけど、一応バンドとしては年長・年少の差はあっても立場は同じで、みんなでまとめてる風にしか見えなかったのに。
賛否聞いてたコユキのボーカルシーンはあれで良かったです。予備知識はあったけど、予想以上に気にしないで見られました。もともと普通にボーカルを入れてしまうことでコユキの歌を“聞こえたそのまんま”のものにされてしまうことにはかなり抵抗があったから、予想以上にざっくりボーカルだけ削った見せ方で、“コユキの歌は特別”としてくれたのはうれしかった。惜しむらくはライブシーンの前にワンクッション、歌い出すまでのコユキの緊張の表情とか入れてくれたら可愛かったのになあ、とか。←単なる萌え描写かよw。
おはなしとして、コユキは竜介に出会ったんじゃなく“音楽”に出会ったんであって、その出会いがセットだったからそれを同じものと思い込んだだけだと思うんだ。だから竜介の持ち込む無理難題とかは、人がなにかを追い求める以上避けることのできない追うための壁みたいなもんでしかないと思うんだよね。そんな中で、そういうコユキを見守るサクとか、BECKというバンド自体に思い入れる千葉(桐谷健太)とか、この関係性の中で音を出すことが肝心だと感じる平くん(向井理)とかの人間性がすごく分かるし、その中心で音楽の楽しさとか真帆との恋とかを、追いかける、とかとも違う、ひたむきに追い求めた結果として手に入れていくコユキの思いとかそういうのが、見ていてすごく愛しかったです。
真帆(忽那汐里)はコユキとのシーンも良かったけど、汐里ちゃんの演じる真帆が竜介というダメ兄に苛立ちつつ、その才能を身内だからこその理屈でない思い入れと愛しさを持って愛していることが分かることが、竜介というかなりどうしようもない“主役”をなんとか成立させてて良かったと思う。まあBECK自体がどれだけすごいバンドかよく分かんなかったのはあるけど、クライマックスの千葉=桐谷健太君のレボリューションにはちゃんと音楽映画のクライマックスになる力があったと思うし、そこから大ラスでハンデになりかねないボーカルなしのコユキのボーカル曲で、千葉を含めたBECKというバンドのステージと会場の盛り上がりをちゃんと絵にした堤監督はほんとさすがだなあ、と思った。
また見たいです。