良太郎★みんな、ありがとう

電王が成長ものじゃなかったというのは靖子にゃん本人が言っているし実際違ったと思うけど、じゃあ良太郎は変わっていないのか、そもそも良太郎は変わる必要のないほど良いやつなのか、となったらはなしは別だと思うんだ。実際良太郎って欠点多いしさ。
ただその欠点が戦いの邪魔になるような、根本的な弱さには繋がってなかったってだけだよね。体が弱いとか運が悪いとかはたいしたことじゃないけど、事態のつらさを受け止められない心弱い人にはいくら暴れん坊のイマジンが取り憑いたって、ヒーローなんか勤まりませんよ、ってはなし。
でもそういうこととは別に、良太郎って確実に幼かったよね、と思うのは、良太郎って、自分がタロズたちに甘えている、という自覚もないほどはっきりと、タロズに甘えて依存している部分があったと思うんだ。

たとえばはなし聞き出すのにウラ憑かせるとか、道場に殴り込みにいくのに実戦ではモモにやらせる気でいるとか、そういうのはもともとタロズがわりと出しゃばりで自分が良いかっこできればそれで良いよ、みたいなとこがあるから双方の信頼関係がどうなってるのかが曖昧だった序盤でもあまり気にされなかったけど(そもそもそこを気にしていたら番組自体成り立たないしw)、自分の体を勝手に使われるのは不愉快だと高圧的に出る割に、タロズの力を借りる時には「お願いします」って感じでもない。ちょっと横暴じゃないですか、家主さん、って感じはずっとあって(笑。
そういうのってタロズの側からしたら、良太郎の芯の強さを認めてその男気に惚れ込んで、良太郎の力になること自体が自分の望みなんだ、という任侠的なものだというのは私もさんざん書いてきてるし番組見れば分かることの範疇なんだけど、そもそも自分がそれだけの器だなんて思ってもいない、最弱の自覚のある良太郎自身にとってはほんとならタロズが力を貸してくれる理由なんかなかったはずなんだ。
もちろん良太郎は特異点だからイマジンだって押さえ込める。ハナが言った「君なら電王になれる」というのは良太郎ならイマジンが暴れようとしても押さえ込んで意のままにできるという意味であって、もともとイマジンなんか信用できないクズだと思っていたハナにしたら、良太郎−−というか特異点−−とイマジンの関係もそういうイメージだったんだと思う。
でも良太郎自身はイマジンを受け入れる定番台詞が「一緒に戦えるよ」であるように、戦う時は口は出してもタロズの自主性に任せてるんだよね。逆にいえばタロズが自分のいうことを聞いてくれると思ってるんだし、そういう意味では#4でモモに怒った良太郎がモモの憑依を拒むのは、“信用できない相手に体を任せられない”という自然で当たり前な感情の結果だったんだと思う。

やり取りとしてはっきり言葉で言及されることはなかったけど、実は良太郎って侑斗に言われるまでもなく、自分が弱いってことにすごいコンプレックスあったんだと思う。
キンタ登場の本条編は見せ場の多い名編で、ハナの見せ場も多かったから良太郎に関してはほとんどスルーされてるけど、私あのはなしでモモを呼べなかった良太郎がパニクって「俺参上おおおおおお」って叫ぶシーンがすごい印象に残ってて。
またあのシーンのタケるんがすごい上手かったんだけど、あの「俺参上」ってほとんど神頼みみたいな、「急にスーパーマンになれないかしら」っていう必死の悲鳴だと思うんだ。
通常ある程度ものの分かる年齢になれば自分の能力っていうのは把握できるわけで、実際良太郎も#1の段階では絡んでくる不良に財布を出してやり過ごすことを日常化してる。貧血ぎみですぐ気絶するようなひ弱な良太郎にとっては、事態をやり過ごすためにはけんかするよりそっちの方が、手っ取り早くて確実な方法だから。
実際このすごく頑固で強情な正義感を持つ男の子にしたら、“必死で不良に歯向かって、力及ばず財布を奪われる自分”っていうのは耐え難いんだと思うよ。それくらいなら「財布出して済むんならそれで良いじゃない」と自分に言い聞かせてそうしていたのがタロズに出会う前の良太郎で、でもそれは良太郎が山越編でモモに言ったように、「理不尽にお金奪られるのは悲しい」という自分の気持ちや、さらにいえば「そんなことをするのは間違っている」という自分の正義から目を逸らした行動なんだよね。だから自分がそれをやられるのは我慢できても、“自分”がそれをやるのは許せない。それが実際には自分じゃなく、“モモ”という自分じゃない存在の行動だとしても。
そこまで強烈な拒否感を感じる生活に甘んじてることがこの強情な男の子にとって平気なわけないけど、かろうじて「自分が我慢すれば良いんだから」とやり過ごしてきたのがタロズに出会う前の良太郎で、でも良太郎って本来はもう絶対この相手にはかなわない、って相手にそれでも立ち向かっていく子なんだからさ。それが間違っていると思ってないわけないじゃん。
非力でひ弱な自分でも、最初からそういう力でくる相手とは向き合わないようにしていればなんとかなる。*1
そう思ってそうしてきたのが“電王ではない”良太郎で、本条編で岡元道場に殴り込んだ良太郎って、モモをあてにできると思ってたのにあてが外れちゃったわけじゃん? あそこは腕力バカのハナが一緒だったからハナが空手家相手に暴れてやり過ごしたけど、ほんとなら良太郎自身が謝る、とかそういうやり方での「僕がなんとかする」方法もあったわけでそれは良太郎だって分かってるからこそあそこでハナに助けられた良太郎の、情けないほど申し訳なさげな様子があったんだと思うんだ。

良太郎って、ハナや侑斗や沢田さんへの態度を見れば分かるけど、自分の気持ちを言葉にして説明することが得意じゃないし、ほんとにギリギリまで避けるよね。
実際もしも良太郎がこんな子じゃなければ、タロズたちにも「僕だけではイマジンと戦えないから力を貸して」っていう風な、違う信頼関係の築き方もあったんだと思うんだ。それでタロズが言うこと聞くか否かは抜きにしてw。
それが言えなかったのは、“イマジンなしでは戦えない自分”を認めることが良太郎にはできなかったからだと思うんだよ。良太郎って山越編でも一人で戦おうとするし、モモたちが消えてしまうと知った時にも「もう力は借りない」って宣言するように、自分が非力であることを戦えない根本的な問題じゃないと思ってるけどそれって事実から逃げてるよね。だから実際モモとやり合って、タロズの力を借りない自分がどんなに非力か思い知らされた良太郎には泣くことしかできなかったわけで。
だから逆に、あれ以前に「自分ひとりじゃ戦えない」と認めてしまったら、別の意味で良太郎は戦えなかったんだと思うよ。
心の強さは無敵といわれる良太郎も、自分の弱さを認める強さだけは持っていなかったってことだと思う。

その辺のことを一番分かってたのってたぶんウラだと思うけど、モモはそんなこと考えるまでもなく良太郎の頑固で一本気なところを気に入ってるし、キンタはある意味良太郎に心酔してるし、良太郎の腹がどんなだろうと力を貸すのにやぶさかじゃない。
でも力を借りる良太郎の方じゃ、「みんなが好きでやってるんでしょ」と思考停止している部分があったと思うし、実際「好きでやってる」だけのリュータみたいなのもいるしw。
だからこのまま戦い続けたらみんな消えてしまう、そんな単純なことじゃないんだ、と分かった時の良太郎はあそこまで揺らいだんだと思うんだ。そんな単純なことじゃないって分かってしまったから。

最終回でパスを返した良太郎が「みんな、ありがとう」って言うじゃん?
あそこではじめて、良太郎は自分はなにも考えずにみんなに甘えてきたけど、みんなはほんとに良太郎のことが好きで力を貸してくれたんだ、だから自分は戦ってこれたんだ、って悟ったんだと思うんだよね。それこそ青鬼の手紙を読んだ赤鬼みたいに。
だからあそこはタロズの好意に子供の立場で甘えていた良太郎が、はじめて同じ立場に立って感謝したシーンだと思う。それまでの感謝とは質が違うと思うんだ。
私はタロズを“見守る大人”だといってたけど、あそこって、良太郎が“見守られる子供”の立場から自立したシーンなんだと思うよ。

*1:「そうやって生きてきたんだろうな」って感じさせるのがライナーフォームになってモモの特訓を受けるうれしげな良太郎の様子でさー。ハナをほったらかして特訓にいくシーンなんかほんと“男の子にしかできない遊びをやってる男の子”って感じで、「あー。強くなるのが楽しいんだろうなー」って感じでうまいんだまたタケるんが。