野阿梓/伯林星列(ベルリン・コンステラティオーン)

伯林星列(ベルリン・コンステラティオーン)

伯林星列(ベルリン・コンステラティオーン)

北一輝を主要人物のひとりにおき、二・二六事件が成功したIFの世界で描かれる1936年・ベルリンの諜報戦争。こう書くとライトに読める冒険小説みたいだが、実際はけっこうなボリュームで挿入される太平洋戦争前夜(小説世界では、二・二六事件が成功したことで太平洋戦争は絶対回避の命題として扱われてるけど)の国際情勢やなにかの説明をちゃんと読まないと登場人物がなんでそうやってんのか分からなくなるし、おまけにそのややこしい説明と変わらないボリュームで挿入されるポルノグラフィーをちゃんと読まないと主人公の人物像が分からなくなるという、妙な脳みその使い方を余儀なくされる本です。しかも2段組本文480P弱。「……辞書?」くらいの感じw。
2008年に刊行されたのを去年の11月くらいに買って、一章まで読んで放ってあったのを最初から読みました。まあそこらでリタイアしなければラストまで大丈夫だと思う。読み直しはじめてからはけっこう一気だった。
デビューがハヤカワSF文庫コンテストなのに、その後ほぼ10年の後に本人いわく「801に目覚め」て初期からのファンをドン引きさせている人だけど、私は初期のシリーズより、その後のはなしの方が好きなんだけどね。いやポルノグラフィーとして使えるとかじゃなくて(ポルノにこんな美文はいりませんw)、801に目覚めた後の定番キャラである、身体的に虐げられる故に精神の靭(つよ)さを手に入れていく主人公の方が感情移入できるから。特にこの伯林星列は、扱いとしてW主人公といっていいであろう、叔父の手で苦界に落ちる非力な貴族の美少年・操青と、日本の正義を真摯に求めるが故に政治の表舞台を降りざるを得なかった黒澄をはっきり対比して描いてるんで、構造としては分かりやすいと思う。……まあそれでもいろいろボリューム過剰なんだけどね(^_^;。うっかり読み飛ばすと「あれ?」って戻る羽目になるんで、これは必要な描写なんだと思いますたぶんw。
このボリュームがこの後のはなしの序章で、この後のはなしも「どれくらいの長さで、一体いつ終わるのか、見当もつかない」「1941年(昭和16年)の可能世界を、どう描くか、というアポリアをクリアしない限り、その世界像を構築することは至難である。」*1と明言されてる以上いつお目にかかれるか分かりませんが、楽しみに待ちたいと思います。
やっぱ個人的には「野阿梓の仕事にハズレなし」だからねー。